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私淑した人々(2)

私淑した人々(2) 柴田 翔

大学に入学して、図書室にあった、われらの文学シリーズのうちの一巻に、高橋和己の「悲の器」(先のエントリにも書きましたが)等と共に掲載されていた、柴田翔の作品である、「されどわれらが日々」に、圧倒されました。すぐに刊行されていた同じ著者の「贈る言葉」を購入して、再度少し趣が変わっていましたが、再び魅惑されました。

柴田01
「されどわれらが日々」は60年安保の前の学生たちの種々な生き方を描いています。当時の学生たち(といっても、一部だったのでしょうが)が、ある党の圧倒的な影響力の下にあって、地下に潜ろうとして挫折するもの、主人公や登場人物たちの、それぞれの結婚相手との葛藤など、いろいろなまでの心の軌跡を描いていました。
エリートである東大生たちが、半ば約束された将来のコース(結婚相手や職業)と党へ忠誠の板ばさみにあって苦悩する話でした。今読み返してみると、70年代と異なる50年代末から60年代にかけての、ある一部の層の雰囲気が描かれているのですが、当時の学生の生き方の生硬さ、挫折、がよくわかります。しかし、登場人物が東大生、相手の女子大生が東京女子大か日本女子大などのみが対象で、将来、政界、財界など実社会でエリートとなるか、あるいは地下に潜っても農民を感化するという、やはり指導者としてのエリートになるかという選択で、選ばれたと考えている人特有の選良意識、独善の匂いを感じられます。60年当時は大学まで進学する人はかなり少なく、さらに東大にまで行く人は極く一部であって、色々考えて本を読んでも自分を疑う方向には向かわなかったのでしょう。また、時代でしょうが、長文の手紙をかいたり、はては自殺をする人が多く登場します。
でも、さすが主人公と同世代の著者です。同時代を別の世代が書いた、石川達三の「青春の蹉跌」から感じたこの世代に対して感じた敵意、違和感は、感じられませんでした。。
この本は党が非合法時代からの流れを引きずって、目指していた武装闘争のために、学生も参加させて山村工作体などを目論見、六全協で全面方針転換した、60年以前の歴史が背景にあるため、今の人が読んでも理解しがたい部分が多いと思います。

柴田02
「贈る言葉」
「されどわれらが日々」とは異なり、政治色がかなり抜けて、よく言えば少し肩の荷をおろした状態での作品と感じました。2つの小説のうち、「贈る言葉」は、大学生同士のカップルが二人の関係の進め方を巡って、次第にずれはじめ、結局お互いに、亀裂の入って絶望しかけた状態で、安宿で初めての、関係を持つに至ったが、結果として、しばらくして見かけた彼女は、以前の凛とした立ち居振る舞いから一変して、着飾っているが痛々しい精神状態に陥るという物語でした。
もう一編の「贈る言葉」もそうですが、今から思えば、女性が結婚相手と心が通じるかどうかと、煩悶、葛藤するなど、一見現代に通じるようで、見方がやはり男性側中心の視点が多いと思いました。リブやフェミニズムのかけらもないころの小説ですのが、ある程度、著者かみた女性のその時代の生き方を反映した人物像だったのでしょう。「されどわれらが日々」よりは、テーマが普遍的で読みやすいです。

柴田翔はその数年後、朝日ジャーナル1968.6.16号の巻頭で次のように書いています。

奥(注)の提出した「それからさき、何をして生きていくのか」という問いは、具体的には、大衆社会の虚妄のなかで、何をして生きて行くのかという問いである。それは、実は学生たちだけに向けられた問いではない。私たちの誰もが、何をして生きて行くのか考えざるをえない地点にいる。そこに、学生運動が、学生でない私たちに対してもっている思想的な意味がある。それは、昔は俺も純粋だったが・・・というような問題では決してない。それは私たちが、現在、毎日毎日の生活にどれだけの重みを感じているかという問いなのである。 
(中略) 
学生運動の側には、私たちに理認される必要など少しもない。私たちが非難しようが理解しようが、学生運動はそこに存在している。彼らを狂人扱いにして何かを失うのは、それによって、彼らがつきつけている思想的問題を避け、怠惰な日常を破滅へ向って、ただただ明るくなめらかに滑り落ちて行く私たちの方なのである。
注)奥浩平著 「青春の墓標」

60年代の柴田翔が70年代(というか、60年代の終わりまで)の問いかけた意味を理解し始めています。それにしても、上野千鶴子といい、柴田翔といい、みんな最後は東大の先生になるのだろう。


ようこそのお運びで厚く御礼申し上げます。
席亭、昨今多忙につき、更新が遅延する場合があります。宜しく御了承ください。
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