秩父山中 花のあとさき 秩父山中 花のあとさき(ムツばあさんの秋、続編) 数年前、下の記事を読んでから、ずっとこの放送をみたいと思ってきましたが、今回、再々放送でやっと見ることができました。下の記事の放送は2002年当時のものでしたが、2006-2007年度に再度取材したもうひとつの番組とともに放送されました。
埼玉県の山奥にすむ老人ばかりの小さな集落での老夫婦の四季を静かに撮影しています。山村は何世代も前からずっと養蚕、林業と農業が主な産業でしたが、林業は外材に押されて衰退し、山は手入れがされないまま荒れていきます。山の斜面にやっとの思いで開墾した畑で作る作物も輸入品に押されて競争力がありません。鍬で毎日のように丹念に世話した畑で3年かかってやっと収穫したこんにゃく芋はわずか1kg90円にしかなりません。街で働いた時は昼休みや日曜があって楽だったという生活から、山村の生活の厳しさが伺えます。畑の手入れ、蚕の世話、家族の面倒や下の井戸からの一日何回もの水くみなどで朝早くから夜遅くまで体を動かし続けてきたのでしょう。 それでも、ムツばあさんなど村の人たちは愚痴をこぼしません。生業(なりわい)が成り立たなくなって街に下りていった人を恨むでもなし、水道が通じて昔より楽になったといっては感謝します。また、自分たちがいなくなってもふと訪れた人達が楽しめるようにと、花木や紅葉の木を丹精こめて手入れした畑を山に返すときに植え、さらに道端にも植えます。その数(かず)、数万本の木は小さいものは花が咲くまでに大きくなる時までは生きられないでしょう。それでも、山への感謝をこめて無償の行為を続けています。猪が畑を荒らしても「人間が実のなる木を切って薪にし、杉を植えたせいで食物が減ったせいだ」と人間の営みのせいにし、猪に同情します。
病気で里に下りて子供達の家に滞在することもありますが、現代風のそれらの家がなんともうすっぺらに見えてしまい、お蚕さんを飼っていた現在は荒れ果てた2階をもつ山の古家が輝いて見えることでしょう。もちろん、大家族のうち、長男のみが村に残り、それ以外は外に出ていかざるを得なかった事情、さらに昔の生活は我々が想像できないほどきつかったことなどもあるとおもいます。それでも生きている間、絶え間なく、自らの体を動かしつづけ、自給自足を旨として金儲けとか、名を立てるということに無関係に生きている人達は、すでにそういう生活が不可能になっている私の魂に響きました。 2007年に作られた続編ではさらに過疎が進み、集落の人数も5-6人になります。もはや使っていないかつての山畑への道を、わずか4人で共同作業で普請して後世に残そうとします。自動車道が通じてもはや不要と思われるものでも残す努力を怠りません。番組の最後で、ムツばあさんは脳梗塞で倒れて入院します。回復してももはや山へは戻ってこれないかも知れません。 高度成長期の前までは当たり前だった、このような生活を見て、私たちが来てしまった永い年月を思いました。山に生まれ、山に生き、山に還る一生。かくありたしと思えど二度と得られない、来ることのない日々でしょう。 感動の研究 最終回 近藤勝重 かくありたし (2002.12.25 毎日新聞)
NHKの感動番組と言えば「プロジェクトX」が定番だが、「にんげんドキュメント」も地味ながら味わいがある。ごく普通に日々の暮らしを生きている人々に焦点が当てられたとき、その味わいはより深くなる。「ムツはあさんの花物語〜秩父山中段々畑の日々」も、小林公一さん(76)ムツさん(78)夫婦の一年を淡々と追っていた。2人が住む埼玉県吉田町太田部楢尾は養蚕や炭焼きの衰退で村人も減少し、お年寄りばかり5戸9人の村になってしまった。小林さん夫婦は、耕し切れなくなった畑を一つずつ閉じて、そこに木や花を植え続けている。「これまでお世話になった畑が荒れ果てていくのは申しわけない。せめて花を咲かせて山にお返ししたい」という思いからだ。ムツさんは言う。「もし人が山に戻ってきた時、花が咲いていたらどんなにうれしかろう」2人で植えたもみじは真っ赤に葉を染め、小さな花の苗は大輪の花を咲かせている。色付いた葉に足を止め、写真に撮りたいと言う通りすがりの人に、ムツさんは「ずうっと上にもありますよ。向こうにも大きいのが」と顔をほころばせる。自分たちがいなくなっても、毎年花は咲いてくれる。そう思ってひたすら種をまき、苗を植える2人の日々の営みが、視聴者の胸を打ってくる。
このドキュメントは今夏に放映されたが、アンコールが殺到、秋に再放送された。町役場や秩父市観光協会にもムツはあさんの山へ の問い合わせが相次ぎ、多くの人が車を走らせ、山道を歩いたようだ。山でひっそり暮らすお年寄りにみんながなぜこれほど心を動かされたのだろう。小林さん夫婦の姿からは、お金や地位や名誉といった世俗の価値はかけらも見えない。見えてくるのは山への感謝の念だけだ。欲も得もない人生の秋冬模様である。 人は心のどこかで人としての望ましい生き方を思い描いているものだ。山肌を慈しむように生きる老夫婦に覚えた感動は、そのまま多くの人の胸の中で「かくありたし」という思いとなってふくらんだはずだ。人はいかに生きるべきか。こう言うと何か大層だが、感動を覚えると、人は時としてあらたまる。一筋の道に立たせてくれるのも感動なら、後押ししてくれるのも感動だからだ。私も毎週のこのコラムをこう思って書いてきた。言葉であれ、光景であれ、感動したシーンには理想の自分が見えている−。 (専門編集委員)
リンク NHKアーカイブス川口 http://www.nhk.or.jp/archives/kawaguchi/event/070617bangumi.html
toru iwasaさんのブログ「最高のもみじ」 http://www.toruiwa.tv/blog2/blog.cgi?time=1197505093&id=toruiwa&category=11 再放送予定 NHK-BS2 1/10(木)16:30-18:00 秩父山中 花のあとさき
NHK-BS2 1/11(金)16:35-18:00 秩父山中 花のあとさき(ムツばあさんの秋、続編)
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